日本人、外国人が「会議」で抱えるストレス
日本人社員が海外に赴任した時に抱える最も大きなストレスの種の一つに「会議」がある。
ただでさえ「英語」というハードルがある上に、日本での会議と違って、どのような流れで行われるのかがわからない。参加者は部署や役職に関わりなく、勝手に発言する。前の人が話し終わる前に、ほかの人が割り込んで話し始めることも多く、今何について議論が行われているのかさえもわからない。にもかかわらず、黙っていると突然、「〇〇さんはどうですか?」と意見を求められる。
外国人社員が日本企業の会議に参加する際も、実は同様のストレスを抱えている。
たくさんの人が参加しているが、発言するのは数人だけ。それも、配布資料を読み上げるだけのことがほとんど。全員が手元の資料を凝視したままで視線を上げることもない。意見があっても、発言をはばかられる雰囲気だ。情報共有なのか、ブレストなのか、何かを決定する場なのか、目的がよくわからない。一見、決定するための場のように見えても、実はすべては会議が行われる前に決まってしまっている。そして、とにかく長い。
日本人にとって海外での会議は「カオス(混沌)」であり、外国人にとって日本企業の会議は「時間のムダ」。海外で一般的に行われている会議のやり方と、日本企業で行われる会議のやり方は両極端と言えるほど大きく異なる。
「意思決定は、会議の外で行われる」
日本企業の会議の目的として、最も多いのは「情報共有、情報交換」だろう。多くの参加者は静かに話を聞き、情報を受け取って持ち帰る。質疑応答の時間でさえ、まったく質問がないままに終わることは珍しくない。議論に相当するプロセスは会議の外で行われていることが多いからだ。
例えば日本企業に特有の「稟議」。現場の担当者から上がってきた案は、順番に上の階層の役職に回覧され、疑問点をクリアにしたり、必要な修正が加えられたりしながら承認されていく。会議に掛けられる段階では、すでに関係者全員でコンセンサスが取られており、議論の余地は残されていない。だからこそ、(例え誰も発言しないとしても)会議では関係者全員が顔を揃えて承認することが重視される。
外国人社員には、こうした「会議の外で始まっている合意形成のプロセス」が見えていない。だからこそ、「会議の目的がよくわからない」「なぜ、会議で疑問や反対意見を言いにくい雰囲気なのか」「会議が行われるときには、既にすべてが決まってしまっているように見えるのはなぜなのか」といった疑問や不満を抱えてしまう。
「会議への参加=発言し議論に貢献すること」
一方、海外で行われる会議は、「意見や疑問を持ち寄り議論する」ことが目的だ。出席者は、誰もが自分の意見を表明して議論に貢献することが期待される。会議で発言することも、議論に「割って入る」ことにも慣れていない日本人にとって、ハードルは高い。しかし、何も発言しないでいると、「何のために参加しているのか」「議論に貢献しようという意欲がないのか」と、周囲からの評価を下げてしまう。
「ハイブリッド」に会議をグローバル化する3つのポイント
会議というと、とかく日本の意思決定の遅さへの批判や、「グローバルなやり方に変えるべきだ」といった議論を目にすることが多い。しかし、どちらが優れているということではなく、違いを理解し、双方のメリットを生かした「ハイブリッド型」を作ることはできないのか。
ここでは、日本人と外国人が参加するグローバル会議を、より建設的で、参加者すべてが納得感を持てるものにするための3つのヒントを紹介したい。
① アジェンダの活用
日本人が海外拠点で会議に参加する場合、外国人が日本で会議に参加する場合の、どちらにも役立つのがアジェンダの活用だ。アジェンダは、日本企業でも珍しいことではないが、活用の仕方にコツがある。
まず、「次年度の経営計画について」「新商品、〇〇について」など、会議全体の「テーマ/議題」だけを設定するのではなく、議事をどのように進行するか、それぞれの議事に何分程度を割り振るかも決めておく。さらに、情報共有なのか、アイデアを出し合うブレインストーミングなのか、何かを決定するのかについても、明らかにする。
例えば、「商品Aで発生している不具合の対策方法検討会議 概要の説明 – 10分、課題の抽出 – 15分、対策の検討と決定 – 20分、対策の実施方法と役割分担 – 15分」など、議事進行を決めておき事前に参加者と共有する。こうした流れがわかっていれば、参加者は、どのような準備をすればよいかわかるし、自分の考えをまとめておくことができる。また、会議中に話がそれにくくなるし、時間が必要以上に長くなることも防げる。
海外で会議に参加する日本人にとっては、アジェンダがあれば、どんな議論がいつ行われるかがわかるので、自分の考えをまとめて準備しておくことができる。
さらに、必然的に進行役が明確になり、議事の流れがわかりやすくなるので「カオス」な状態から脱することができるはずだ。日本で会議に参加する外国人スタッフも、会議の目的を理解したうえで臨めるので、納得感を持って参加できる。
②「根回し」「稟議」を外国人社員に説明する
日本の従来型の意思決定は、コンセンサスを重視しており非常に時間がかかる。会議の外で行われる稟議や「根回し」で方向性が決まるため、意思決定に参加したい場合は早い段階から動き、合意プロセスに参加する必要がある。
外国人社員が日本企業で働く場合、特に会議に参加する場合には、まず、「根回し」や「稟議」を含めた、こうした日本型の意思決定の特徴を説明し、理解してもらうことが必要だ。それがないと、目の前で起こっている会議の目的や、意思決定にどう参加すべきかがわからない。
その上で、意思決定の方法も、多少修正すると良いだろう。
例えば、日本の企業は時々、会議で何かを決めた後で、ほかの関係者(他部署のマネジャーなど)を交えた別の会議を行って、決定事項を変更することがある。このこと自体に問題があるわけではないが、海外ではこうしたことはあまり起こらないので、外国人スタッフは混乱するし、不満を抱えることにもなりかねない。会議での決定事項はなるべく変えないようにし、もし変わる可能性があるのであれば、その旨を知らせておくとよいだろう。
③ 議論のポイントを可視化する
海外拠点で行われる会議に日本人が参加する場合にも、いくつか押さえておくべきポイントがある。
英語を母国語としない日本人には、議論についていくのも一苦労だ。(日本にいる外国人にとっても同様だ。)できれば、書記を誰かに担ってもらい、会議中に、議論のポイントをホワイトボードに書いてもらう。
オンラインの会議であれば、会議ツールのホワイトボード機能やチャット機能を使ったり、プレゼンソフトを画面共有したりしてもよい。議論のポイントを可視化することで、話がそれたり議論のポイントがずれたりしにくくなるし、議事録作成の手間も省けるので、会議に出席する人全員のメリットになる。
日本人が、海外拠点にマネジャーとして赴任している場合は、英語で進む議論についていけないからといって、中途半端な理解で意思決定をしてしないよう気を付けたい。議論をしっかり理解しているか自信がない場合は、ホワイトボードに書かれた議論のポイントを確認し、不明点があれば質問して理解してからにするとよいだろう。
海外拠点で会議を開催する際は、日本的な感覚で、関係しそうな人全員を招集するのは避けた方がよい。海外は日本に比べると個人の職務範囲が明確に定義されていることが多い。役割を確認し、会議の目的に合った本当の関係者のみに絞って参加を求める方が、後の仕事もスムーズに進められるだろう。
外国人が日本企業で意思決定に参加するときのコツ
日本企業の会議に参加する外国人が、気を付けておくとよいことも紹介したい。
まず、会議中の誰かの発言について、よく理解できない時にも、「どういう意味かわかりません」「なぜ〇〇なのでしょうか?」など、ストレートな質問を投げかけない方がよいことが多い。発言者は、何らかの理由で、わざとあいまいな表現をしている場合もある。「それは、例えばどのように解釈すればよいでしょうか」など、婉曲に真意を聞く、便利な言い回しを使うとよいだろう。特に、自分より上司にあたる人に反論する場合は気を付けよう。
新しい提案がある場合は、会議で突然提案するのは避ける。上司はもちろん、関係する部署にも事前に相談し「根回し」をしておく。そうすることで、公の議論の場で問題になりそうな点についても、予め対応を考えておくことができる。
提案するときのコツとしては、できるだけ他社の類似事例に言及したり、顧客からの要望があったことなどに触れるとよい。さらに、大型の提案であれば、ロードマップ全体を見せるのではなく、最初の部分だけにとどめ、予算が大きく見えないようにするといったテクニックも役立つ。期間や予算が大きかったり、部署をまたいだりする場合は、階層の上のレベルの意思決定が必要になるため、たくさんの根回し、たくさんの会議を通さなくてはならなくなるためだ。
ここでは、日本の会議(意思決定)の特徴を述べながら、すぐに取り組める、「会議のグローバル化」のヒントをご紹介した。しかしこのほかにも、「日本型を捨ててグローバル型に変える」のではなく、「ハイブリッドな形に変える」ためのやり方はたくさんある。ご紹介した3つのヒントが、それぞれの企業に合った「ハイブリッドな形」を取り入れるきっかけになればと考えている。
Source of pictures: unsplah.com and pexels.com
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